周文様山水画

周文様山水画

周文は室町時代中期の禅僧画家。相国寺で如拙に画を学び、足利将軍の御用絵師となる。雪舟の師であり、室町時代の山水画様式の典型を作り上げた。周文自身が実際に描いたという作品は特定できず、画風の実態については不明である。後に周文様式と呼ばれた画風は、縦長の構図を用いた高遠の強調、中国南宋時代の宮廷画家である馬遠や夏珪に倣った対角線構図の多用、力強い描線、等が挙げられる。また、実景の写生ではなく、記憶の中の景観や宋元画など先行作品の諸要素を抽出し再構成した、絵から絵を作る方法である。完全に虚構であるが、中国画を元にしながらどの中国画にも似ていないスタイルの確立に周文の独自性がある。

「Relation」

本作品のテーマは「日本の山水画」。山水画は中国の唐時代に発展し、水墨画とともに東洋を代表する芸術である。本作品でも仏画の制作と同様に古典絵画の技法や方法論を現代の視点から見直し、模写を積極的に取り入れている。室町時代に日本の山水画様式を確立したとされる周文の方法論をもとに制作することで、日本の山水というテーマに取り組んだ。

このシリーズの中でも「Relation」はその特徴をよく表している。まず、本作品は室町時代から近代までの様々な時代の日本絵画のオールドマスターの作品のモチーフが模写され、その模写が作品の主な構成を占めている。次に、それらのモチーフが空間的秩序としては破綻をしながらも、大気や水の流れに溶け込むことによって不思議に繋がっている。これは絵巻などに見られる雲や霞、大気や水による場面転換の手法を取り入れている。また、空間構成に参詣曼荼羅などにみられる、縦方向に展開する階段式の手法を取り入れている。そのため、西洋の空気遠近法的な奥行きはなく、空間が平面のレイヤーのような重なりかたをしている。さらに、画面下から上に向かって、海から人間の住む空間、山から仙境、空から宇宙へと空間が変化し、同一画面上で四季がうつろい、時間軸と空間軸が多重に展開している。くわえて、本作品では添景人物も、海士、旅人、遊行僧、登山家など、境界をこえて移動したり旅をするものや、寒山拾得や布袋、五百羅漢などがみられ、聖と俗が共存している世界をあらわしている。
最後に、本作品は空間の不自然な繋がりから、鑑賞者に微妙な違和感や不安定さを感じさせるだろう。しかし、私はこの「科学的には不完全で未消化な空間構造」こそ日本的なものと感じている。本作品にあらわされる「曖昧だからこそ何となく繋がれる世界」は、『ゆく川の流れの様にひとつとして同じことはない』という言葉にあるような、「うつろい」や「はかなさ」といった変化の中に本質を見る日本的美学や自然観にも通じていると考えている。本作品では古典から現代にも通じる日本的自然観や方法に基づく絵画を試みている。

この作品のテーマは「日本の山水画」。山水画は中国の唐時代に発展し、水墨画も山水
画とともに大きく発展してゆく。中国の芸術や文化が日本に様々な影響を与えているこ
とは歴史的に明らかだが、それが日本ではどのように受容され変化したかという事が私
の関心事である。この作品は様々日本の古典絵画の作品がコラージュされ再構成されて
いる。様々な時代の日本絵画のオールドマスターの作品が大気や水の流れに溶け込みな
がら不思議に繋がっている。空間が縦方向に展開する階段式の構図の組み立て方は参詣
曼荼羅などにみられる手法も取り入れている。また空気遠近的な奥行きは浅く平面的に
レイヤーのような重なりかたをしている。海から人間の住む空間、徐々に山から空、そ
して宇宙へと空間が変化し四季のうつろいも取り入れて時間軸と空間軸が多重に展開し
ている。また添景人物なども鳥、海士、旅人、遊行僧、登山家など境界をこえて移動し
たり旅をするものや、寒山拾得や布袋、五百羅漢など、脱俗の聖が描かれているのも重
要である。天に向かって屹立する山や塔、洞窟や火口などの穴は聖なるものとセクシュ
アルなもののイコンである。桃源郷や富士山信仰など民間的なイコンも組み込んでいる。
モチーフやイメージ、歴史の重層性は西洋の現代美術では常套手段だが、古典文学や歴
史を題材に、モチーフや状況の見立て、言葉遊びによるイメージの重層性を巧みに取り
込んだ江戸の浮世絵は、そこに含まれている文脈を読み解き楽しむものなので、ある意
味で現美術の手法と似ている。山や添景人物などの個々のモチーフが互いに関係し、反
復や増殖を伴いながらイメージの重層性を持って繋がっているが、空間の不自然さから
くる歪みが、どこか繋がりの不安定さを生じている。時間や空間、歴史を超えて様々な
ものが移動し、関係し、繋がり、循環するが、なんとなく不安定さが残るバランスに構
成している。古典絵画で行われている技法や方法論を現代の視点から見直し、現代美術
の技法や方法論に置き換えてイメージを再構築している。模写の経験から個人主義に対
する反近代的な思考が私の中に生まれ、オリジナリティを抑制したり消しながら表現す
る手法として模写を取り入れている。