Suomi(color)

Valo(Light)

2019年 360×1400㎜ 手漉雁皮紙、松煙墨、油煙墨、特殊インク

Valoはフィンランド語で光(Light)を意味します。本作は2018年のフィンランドのレジデンス体験した北欧の自然や光を手掛かりに、帰国後に制作した作品です。またレジデンス先の近くには教会があり、滞在中にはいくつかの教会を訪ねたことも本作の制作の契機となっています。 題材は旧約聖書の「創世記」の冒頭にある世界の創造について書かれた場面です。

神は天と地を作るが地は形なく、闇が淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてを覆っていた。神は「光あれ(Light)」といわれた。その光をみて神は良しとされた。神はその光と闇とをわけられた。次に「水の間におおぞらがあって、水と水を分けよ」といわれた。

 世界の誕生、光が現れて世界が出現することの想像から5つの色彩バリエーションを制作し、2019年のLightsGalleryの個展では、それらの作品で空間を取り囲むインスタレーションを発表しました。罔両画の制作では能楽や古典文学を題材にミニマルな造形へと凝縮した風景を描いてしたが、本作では題材を旧約聖書、光に求めて描いています。また海や水平線の景色を想像させながらシンプルなストロークによる抽象画にも見える作画は、抽象と具象のあいだをうつろう点で他の作品にも見られる私作品の特徴です。

 本作は3層の紙によって裏打ちされ、1枚のシートになっています。裏打紙は通常は楮紙を使用しますが、本作品は本紙と同じ紙で裏打する共裏打を応用しています。肌裏紙という本紙に一番近い裏打紙を工夫することで見え方に変化が生まれるように調整、透明感のある奥行きを描いています。肌裏打ち、裏彩色、光の透過、吸収、反射を計算することで、僅かな変化で見え方が変化する繊細な作品です。自然の景色に倣い、本作も周囲の状況の変化によって見え方がうつろいます自然を描くのではなく、現象をとらえて解釈し、絵画としてうつしています

Aura

2018年 各210×110㎜ 手漉雁皮紙、松煙墨、油煙墨、特殊インク
フィンランドの古都トゥルクはアウラ川の河口にあり、バルト海に面した港湾都市です。アウラ川は市民にとって親密であると同時に歴史的な場所です。レジデンスはこの川沿いにあるTitanik galleryで行ないました。滞在中に見たフィンランドの自然と色彩、光と影はとても印象深く、色や光をモチーフにした作品を作りたくなりました。フィンランド滞在時の印象の記憶による光と水の日記のような作品です。光(色彩)と水と、筆触の運動をシンプルに用いて、空と水の景色の中に Aura(霊性)のあらわれを待ちました。