仏画

「普賢新生菩薩」

 伝統的な仏画(密教絵画)の制作技法を踏まえて制作した現代絵画。
 仏画は色やモチーフに厳格な意味や決まりがあり、それらの記号のようなものが集積して造形されている。そのため勝手な変更や組み換えは経典内容から逸脱することとなり、正式な仏画の機能を果たさなくなるため、見方によっては仏画ではないとされる。しかし、過去の日本仏教絵画を遡ると、高僧の監修による新図様の仏画も見受けられるし、過去の図像を引用して再構成する制作方法もみられる。本作では平安後期の密教絵画の模写で培った技法(絹に金銀切箔、繧繝彩色裏彩色、裏箔、裏打紙染色など)を駆使している。伝統的な仏画の造像過程を踏まえながら末法思想の起こる平安時代後期の様々な仏画・仏像をコラージュし、モチーフの記号的意味も理解したうえで再構成し、新たなコンセプトによる仏画を造形している。本作では特に普賢延命菩薩の中から金色の阿弥陀如来が出現する姿が「新生」というテーマを象徴的に表している。本作は一見伝統的な仏画にみえるが、既視感とは少し違和感のある図像にしている。経典から逸脱し仏画としての機能を目的としない本作は、プレモダンからポストモダンの表現を編み込んだ重層的な構造を持った作品である。
 
*)2007年の「日本画滅亡論」展では作者が推定復元模写した平安後期の「普賢延命菩薩」と対になる作品として展示している。そこでは模写とオリジナルの境界や様式や型を用いた芸術の再創造についての問題提起を試みている。