Absorption

Absorption

光は波であり、粒である

Absorptionは水や光の吸収を意味します。人間の目は、「吸収」「透過」「反射」「錯乱」してきた光によって、あらゆるものの色や形を見ています。『光学』の著者、ニュートン(1643‐1727)を批判したゲーテ(1749‐1832)は『色彩論』の冒頭で「色彩とは光の行為である。行為であり、受苦である。」と述べています。科学者のニュートンと芸術家のゲーテの光の捉え方は、どちらが正しいということではなく、異なる角度で捉えた見方です。この作品の複雑に見える色彩は、水が紙に渡って移動してくる吸水現象を利用した方法によるものです。水分量や時間、紙の置き方など僅かな状況の変化でうつしとられるものが変化します。対象を描写するのではなく、時間や水と協働して紙に色彩(絵具の粒子)をうつす技法による作品です。

 

1.寸松庵(Sun-shou-an)

2021年 棒絵具、中国画宣紙、楮紙

本作では赤、青、黄の三原色のみ使用しています。ここで使われる洋紅、本藍、ガンボージの3色は書画の文化財修復の補彩で使われる材料です。3色で調色して補彩に用いるあらゆる補彩色(古色)を作ります。通常は混色して使うこの3色を単色で並べて配置し、吸水させて料紙を作成しました。各2種の料紙を継いだ後に裏打して1枚の紙にしています。現象を紙に定着する発想は墨流しなどのかな料紙の加飾技法から着想しました。タイトルは、かな料紙の寸松庵色紙のサイズで制作したことに由来しています。

 

2.石山(Ishi-yama)

2022年 墨、棒絵具、顔料、金属泥、中国画宣紙、楮紙、雁皮紙

本作では色と水の変移を中国画宣紙にうつしとった料紙をベースに、雁皮紙や楮紙など、複数の加飾紙を作成した後、継ぎ合わせて裏打し、かな料紙に見られる金銀泥による彩絵を施しました。本作は平安時代の古筆の国宝『石山切』のかな料紙から着想を得ました。様々な加飾紙を組み合わせる継ぎ紙が特徴的な石山切は、染め、墨流し、金銀加飾、継ぎ紙など様々な装飾技法を尽くしています。金銀彩絵には植物、鳥、流水など、うつりゆくものが描かれています。

Absorptionの作品に使用する水と色彩の変移をうつしとった個々の料紙は、それぞれに異なる空間性を持っています。前作の方法論をベースに新たな料紙を作成し、それらを複数枚切り継いで『石山切』のサイズに整えました。その空間をつなぎ、横断するものとして渡り鳥を金銀彩絵で描いています。抽象的なコラージュ空間であり、様々な水の変移のうつしである空間のあいだを渡る鳥。水と鳥の組み合わせは様々な日本の伝統的な意匠や主題に見られるものです。