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破墨プロジェクト(HABOKU PROJECT)

 

 

破墨プロジェクトとは、8世紀の中国で行われていた、アクションやパフォーマンスを横断する墨を用いた芸術表現「破墨」について考察し、現代へ再構築を試みるプロジェクトです。「破墨」は、東アジア、特に日本の水墨表現を顧みるうえで非常に重要な表現です。しかし、その内容については、実際はよくわからないところがあります。このプロジェクトでは、年間を通じてレクチャーやワークショップ等のstudyシリーズを行い、「破墨」の再構築を行います。日本画家の山下和也、俳優・神楽舞手の高安美帆、ファッションデザイナーの隅野由征の3名が、異なる立場から未知のテーマに取り組むことで、各自の視点を持ちより、あらたな表現に挑戦します。

主な参加者:
山下和也(日本画家・東洋絵画修理技術者)
高安美帆(俳優・神楽舞手)
隅野由征(ファッションデザイナー)

主催・企画/ 山下和也(SunSui.) 共催/ C.A.P.(芸術と計画会議)
協賛/株式会社墨運堂
協力/ エイチエムピー・シアターカンパニー、舞夢プロ、Thee Trio


yamashitakayasumino

三人で行っている共同制作作品のタイトル。

山下、高安、隅野の三人の名前を併記すると、yamashitakayasumino(ヤマシタカヤスミノ)となる。タイトルは意味を持たず、呪文のような言葉になる。それはこの作品が言葉にならない何かになることを期待していることに由来する。

この作品では主に高安が舞う神楽の軌跡を和紙に墨でマッピングするアイデアからはじまった。隅野は高安の舞に対して衣装を提供し、舞の合間に衣服に鋏を入れる事で高安の舞姿や運動の軌跡に変化を与える。また、山下は墨、水、和紙の性質を見極めてドローイングを行い、高安の舞の軌跡を誘導する。高安はそれらのサジェスチョンを受けながら、即興で神楽の型から舞を組み立てる。三人それぞれが行った瞬時の思考やアクションが、和紙の上で墨痕としてたち現れる。

パフォーマンス

ドローイング

Exhibitiion

KAVCアートジャック2018の展示作品について

 

稽古場である鏡張りの空間にyamashitakayasumio3.4のアクション・パフォーマンスの映像とその際の舞台、或いは媒体となった和紙と墨痕による作品が宙吊りされている。これから上演される舞台の稽古を行うのこの場所に、かつての舞台そのものが姿を変えて空間に点在している。また、スクリーンとして用いられている和紙は次のyamashitakayasumio5の舞台でもある。

 

最初のセッションである2018年3月のyamashitakayasumio1.2の2m×2m、3m×3mのサイズに比べ、2018年の7月に行われた3.4回目の3人のセッションは、和紙のサイズも5.4m×2mとなり、空間が大きく変化した。必然的にそこで行われる3人のアクション・パフォーマンスも変化する。特に高安の舞は激しさによって丈夫な紙が大きく裂け、破れる程になっている。山下は3.4ではともに図形の〇△□を描いているが、この図形は禅宗では大宇宙の真理(1をあらわし、神楽では動きの基本形をあらわす。ほぼ同じ図形を描きながらもそこで行われたアクション、パフォーマンスの様子やその痕跡である作品の結果は大きく異なっている。作品を間近で観察すると、山下の用いた藁筆や竹筆の筆触、散水した痕跡や、高安の舞による足形や踏み込んだ際に捩れる紙のしわや衣服の擦れ跡などが生々しく和紙に記憶されていることが確認できる。

 

映像では、圧倒的なパフォーマンスをみせる身体表現者の高安と、身体表現者ではない隅野や山下の姿が対比的である。一見すると舞台人のような隅野の容姿とそのキャラクターのズレは、一陣のユーモアを加味している。専門性が全くことなる3人の、それぞれの観点やサジェスチョンの応答が映像によってみえてくる。

 

1)「〇は円相で絶対的な真理、△は禅の坐相で仏と一体となった姿、□はとらわれた心で社会の常識に囲われて生きていることをあらわす。また、形あるものの世界は△と□から成り立つ。」このような説があるが、他にも諸説あって、実際のところはよくわからない。また、山下は仙厓(江戸時代の禅僧)が描いた著名な作品、〇△□をこの作品で取り入れている。仙厓の作品では〇△□を少し重ねて、3つの図形はひとつであるという事を示している点に要点がある。この3つを様々なものに見立てた説があり、山下はそのことを踏まえて描いている。さらに、高安の舞の痕跡について、戦後日本美術を代表する具体美術協会の白髪一雄のフットペインティングとの差異や、その原因と結果についても意識している。山下は美術家としての視点で、水墨画が生まれる8世紀から現代までの歴史をなぞりながら、「破墨」の現代へのアップデートを試みている。


studyシリーズ

破墨とは何なのか?その理解や現代に再考するための方法のひとつとして行なっている専門家によるレクチャーやワークショップ。様々な分野の専門家に講師を依頼して開催。これまで、墨や筆の職人、美術史家、学芸員などを講師に招き、現在までに4回開催。今後も継続して行う予定。

study.1「水墨画の材料と技法」 講師:山下和也(日本画家・東洋絵画修理技術者)

study.2「破墨の表現力ー現代芸術へのサジェスチョンー」

講師:村田隆志(大阪国際大学准教授)

study.3「具体ー東洋と西洋のはざまに」 講師:山本淳夫(横尾忠則現代美術館学芸課長)

study.4「カットソー」 講師:隅野由征(Thee Trioファッションデザイナー)